「生きたいか?」
その言葉に彼女は顔をゆっくりと上げる
「それとも、死にたいのなら今ここで殺してやる」
杖を突きつけて彼女にそう言ったのは一体いつだっただろうか?
今まで何人も殺してきた 女も子供も容赦なく・・・時には泣き叫ぶ母親の前で子供を切り刻んだ事もある
それなのに彼女だけは殺さなかった・・・いや、殺せなかった
その強いどこまでもまっすぐに前を見据える瞳が欲しくなったから・・・
「惨めでも地を這ってでも生きたいなら俺に従え、そうすれば命だけは助けてやる」
彼女は杖を持たない手をぎゅっと握り唇を噛み締める。 そして彼女は・・・・・・―――――
「我が君」
呼ばれてヴォルデモートはゆっくりと目を開ける いつの間にかうとうととしていたようだ。額に手を当て軽く左右に首を振る。
それで多少頭がすっきりとしたので先ほど声をかけてきた人物に視線を向ける
「か・・・何のようだ?」
たいていの人間が怯えるであろう紅い瞳も目の前の彼女は例外らしい
「特にこれと言ってはただ眠るのならしかるべき場所でお眠りになってはいかがかとご忠告したかっただけです」
淡々とした表情でと呼ばれた死喰い人はそう言った。いくら死喰い人でも態度が大きすぎる
だがヴォルデモートは気にしていないらしくクククっ・・・と声を押し殺して笑った
「貴様は俺が怖くはないのか?」
「怖いです。そして憎いです」
はっきりと述べる はもともとヴォルデモートの考えに賛成して彼の配下になったわけではない
ほんの1年前までは逆の立場―――代々闇払いとして生きてきた一族だったのだ
邪魔だった。だから殺そうとした。現に彼女の両親、兄弟を殺すのに何の躊躇もなかった
だが肉親を殺されても激昂しないように必死に気持ちを押し殺そうと努力し、涙を流しながら杖を突きつけてきたをヴォルデモートは殺さなかった
気に入ったといえばそれまで
だから生死の選択をさせたのだ。配下になるか死ぬか・・・そして彼女が選んだのは彼の配下となり生きる事だった。
「俺を目の前にして憎いなどと言いつつ生き残れるのはお前だけだなそれを知りつつ言っているのか、それとも貴様は愚かなのか?」
「そのお言葉そっくりそのままお返しします我が君・・・貴方様はあの時、気まぐれに私を生かした。いつ背後から狙うか分からないような女を、です。それから判断すれば我が君も十分愚かかと・・・」
「貴様に殺される俺ではない」
そう言うとの頬が怒りで僅かに赤く染まる。俯き奥歯を噛み締め怒りに耐える
ヴォルデモートの言っていることは事実だった。1年前、はヴォルデモートの足元にも及ばなかった 今ではさらにその差を開いているだろう。だがはそれを認めるのが嫌だったのだ
彼女が自分の配下になってからは滅多に感情を表に出さないようになっていた。だが瞳だけはしっかりと己の感情を主張するのをヴォルデモートは理解していた
「だが貴様を生かした理由はそんなくだらない事ではない」
それは事実だった。彼を殺せるわけないからなんて理由で配下に加えていたらきりがない
は顔を上げてヴォルデモートを見た
「ではなんですか?」
「貴様を愛していると言えばどうする?」
その言葉にが目を見開いた
最初は自分ですら信じれなかった
自分が目の前の女を愛している事など・・・
戸惑いつつも自分のこの感情の名に気がつくのに随分と掛かった
馬鹿馬鹿しいと思う
愛という言葉の意味すら知らずに生きてきた自分が・・・
だがこの感情につけるべきほかの名前なんてなくて・・・
「ご冗談を」
「冗談ではない」
そう言ってこれ以上話すつもりはないらしくヴォルデモートは立ち上がり漆黒のローブを羽織る
「どちらへ?」
「前にも話しただろう?邪魔な連中を掃除してくるだけだ」
「あぁ・・・確か、闇払いの一族でしたよね?」
思い出したようにはそう言った。何か難しげな・・・いや、嫌悪感を隠しているにヴォルデモートは声をかけた
「お前の家族を殺したときでも思い出しているのか?」
「・・・・・・答える義務はありません」
きっぱりとは答えた。その瞳にやどる感情は珍しくヴォルデモートにも分からなかった
「貴様も来い」
「はい」
「アバダ・ケダブラ」
緑の閃光が辺りを包む。そしてその直後どさりと言う重たいものが倒れる音が聞こえた
「あっけないなのだな。闇払いと言っても所詮三流か」
倒れた・・・先ほどまで生きていた男に向けて嘲笑を浮かべる。そして倒れた男への興味が失せたのか顔を上げる
「それで・・・貴様らはどうするつもりだ」
その言葉にビクリと震える数人の闇払いたち。どうやら事前にヴォルデモートがここを襲うという情報が流れていたらしい
だがそれぐらいでは驚かない。まぁ、それはお互い様というやつだ。こちらも向こうにスパイを送っている
しかしいくら情報が伝わり人が集まっていたとしてもヴォルデモート相手にはいささか人手不足のようだ。
恐怖のためか向かって来る者もおらずヴォルデモートはつまらなそうに闇払いたちを見た
その時、ふと・・・背後から感じる何かにゆっくりと振り返った。
背後にいるのは自分に杖を突きつけているの姿。それだけでヴォルデモートは全てを悟った
「なるほど・・・貴様か。俺がここに来る事を流したのは」
「意外ですか?」
「いや」
彼女は自分を恨んでいる。いつこうなってもおかしくないと思ってはいた
逆に一年もよく持ったと感心するくらいだ
「貴方に家族を殺された恨みは消えません。ここで死んでください」
「先に言っておくが2度目はないぞ?貴様はここで死ぬ」
「この状況で勝つつもりですか?」
ヴォルデモートの杖は本人が手にしているもののではなく地を向いており対しての杖はまっすぐヴォルデモートの心臓に向いている
だが余裕を持ったヴォルデモートの冷酷な笑みは消えなかった
「言ってであろう。貴様に殺されるつもりはない、と」
「そうですか」
合図はなかった。彼と彼女は魔法を唱える
「憎かった・・・でも私も好きでした」
―――・・・おそらく
ふと彼はそう思った
―――・・・自分は今日の事を忘れることはないだろう
緑の閃光が彼女と闇払いを照らした
もう動かない彼女
あれほど好きだと思っていた瞳にはもはや何の感情もない
は最期の瞬間何かを言っていた。だがそれすら聞こえなかった。
―――彼女はなんと言ったのだろうか?
彼はそう想いながら見下ろしながら彼女にぽたぽたと落ちる水滴に気がついた
それが自分の涙だと・・・自分が泣いているのだと理解するのに時間がかかった
―――・・・おそらく生涯で他人の為に流す涙なんてこれが最初で最期だろう
後悔するつもりはない、だが忘れるつもりもない
まさか自分が泣くとは・・・よほどショックだったのだろう。
だが―――彼は手駒が一つ減っただけ・・・そう思い込むことにした
でも、今だけはせめて・・・・・・―――
かなり暗いお話な気が・・・ちなみにヴォル卿はおそらく20代か30代前半です
ご期待に添えましたでしょうか???(かなり不安)
感想とか下さると嬉しいです
それではこれからもよろしくお願いします♪