I had never dreamed of …
雲一つない空
真っ青 という色は、まさにこの色。この空に飛んでいったら
本当に飲み込まれてしまいそうだ !
冒険のような、賭けのような そんなことを思いながら
箒に跨り、地面を思いっきり蹴る。
ひゅん と風を切って顔を撫でる空気を感じる。
気 持 ち い い !
今日の午後のことも忘れられそうだ。またもマルフォイ贔屓のスネイプにくどくどと嫌みを言われて、30分も時間を潰してしまった。けれど、そんなむかむかする気分もファイアボルトに乗ってしまえば吹っ飛んでしまう。
どこまで行こうか。
城の上を旋回していたハリーは下にいる人達を、上から覗きながら考えていた。
その時、ちらっとハリーの視界の中に
ある女生徒が映った。
だ
そう思うだけで胃袋が沈むのを感じる。は、ハリーのことを嫌っている数少ないグリフィンドール生だった。嫌っている理由は、マルフォイと似たようなこと。どうも、ハリーが目立つのは自分が目立つのは当然だ、とハリー自身が思っていると勘違いしているらしい。
“全くやんなるよな。”
そう言っていた、ロンの声が聞こえてきそうだった。
ハリーはじっと上からが何をしているのか見ていた。
何かを持って歩いている。でもよく見えない。
ちょっとだけ好奇心に駆られて
ハリーはすぅ と、から少し離れたところに降り立った。が向かっている場所は元温室。確か随分前にもう使われなくなったはず。
気付かれないように付いていくハリー。は、元温室の中に入っていった。
ガラス張りの部屋だったが、使われていないだけあってまるで曇りガラスのようだった。
ハリーはそこからまたファイアボルトに跨って元温室の上から覗いて見た。
するとそこには、物や薬草がほったらかしてあったのでなくきちんと栽培されたように育っていた。
今まで見たこと無いような綺麗な花まで付けて。もしかしてがここまで・・ ?
は、手に持っていた物を植物の方へ傾けた。鉢に水が入り込む。
微かに、歌声が聞こえてきた。綺麗な旋律だった。
の口元が、小さく動いている
その澄んだ歌声が、ハリーの耳をくすぐる
(なんて気持ちいい声なんだろう)
花に向ける微笑みが、ハリーの目をくらませる
(なんで 目を奪われるんだろう)
その時、はっと気が付いた。
なんてこった !! 僕は・・
ハリーは慌てて城の方へ箒の向きを変えた。思いっきり飛ばして帰った。心臓が高鳴り始めていた。
ハリーは自分で自分が信じられなかった
まさかに・・・?
よくよく考えてみると、ハリー自身にを嫌っている理由は無い。
ただ、勘違いされているとあって近づいたことが無かっただけ。
また、はハリーのことを勘違いしていたが憎んでいる様子は感じられない
って、何を考えているんだ僕は !!
寮の談話室で、頭の中を整理するつもりが成功率を考えてしまっていた。
頭を抱えて下を向く。するとその時、婦人の肖像画からがやってきた。
手にはジョウロを持っているちらっと、横目でを盗み見する。
よく見てみると、またも心臓が高鳴り始める。
あぁ、やっぱり・・
じっと見ていたら、に気付かれて
「何?」
と少し睨まれた。さっきの笑顔が見たいなぁ なんて思いながら「いや、別に」と、に返した。
前途多難 だな・・
だからと言って、諦める質じゃないけれど。
一体 何なの?
突然、あのハリー・ポッターが私に話しかけてくるようになった。好感度アップでも狙ってるわけ ??
なるべく、ハリー側に顔を向けないようには昼食を済ませた。
今までは近寄ろうともしなかったハリーがの隣に今日は座っていたお陰であまり落ち着いて食事が摂れなかった。
「あ、ミス・。」
昼食を済ませて、立ち上がった時ハリーがに話しかけてきた。
無視してやろうかと思ったけれど流石に公衆の真ん前だしは嫌そうにハリーに応えた。
「何、ミスター・ポッター。」
「これからあの温室に行くの?」
この前、温室から出てきた瞬間偶然(・・・)にもハリーに会ってしまいあの温室の存在を知られてしまったのだ。
あの温室のことは、誰にも知られたくなかったのに。
は、小さく溜息をついて
「そうよ。」
とハリーに一言言って、大広間を後にした。
「後で行ってもいいかな!?」
というハリーの声を無視して。
いいわけないじゃない!
は寮の部屋に戻ってあのジョウロを持ち出し、温室へ向かった。
ポッターが来る前に水やりを終えなきゃ。
ジョウロに水を入れ、小走りになって急ぐ。けれど、が温室に着いた時には手にジョウロを持ったハリーが既にいた。
「な、なんでいるの。」
その声で気付いたようで、ハリーはの方に振り返り
「遅かったね。」
と笑った。
「遅くないわ。(これでも早く来たんだからっ)」
「じゃぁ僕が早かったのかな。」
「そうなんじゃないっ?」
はハリーの横をすり抜けて、花に水をやろうとする。すると、ハリーが
「そこはもうやったよ。」
とすかさず言った。
えっ、と振り返るといつの間にかハリーがすぐ後ろにいた。
な、なに?
驚くに気付いていないのか
「ここからそこまではもうやっちゃったよ。」
ハリーは、半分ぐらいの範囲を指して言った。はハリーを少し睨んだ。
勝手にやらないでよ。でも、声には出さず、は小さく
「ありがと。」
と言って、はハリーの残してくれた半分の花たちに水やりをし始めた。
あーぁ、やんなっちゃう。ここは私のオアシスだったのになんでポッターがいるのかしら。
はぁ と、また小さく溜息をつく。が水やりをやっているから何もしていなかったハリーは
「どうしたの。」
と訊いてきた。
「何でもない。」
「でもさっき溜息・・」
「何でもないわよ !」
思わず大きな声が出た。それが切っ掛けとなって溜まりに溜まっていた言葉が出てきた。
「一体何なの!突然話しかけてきたと思ったら私がこの温室にいることを知ってて、それだけじゃなくこの温室に入り浸るようになって!ここが好きならいても良いわよ!でもどうせなら私のいない時に来て頂戴!私は、ポッターとは一緒にいたくないわ!!」
最後まで言ってから、はっと酷いことを言ったのに気付いた。けれどももう遅かった。ハリーは笑っていた。笑っていたが、目は笑っていなかった。静かな時が流れた。遠くで鳥がさえずっている。
「ごめんね。」
先にしゃべったのはハリーだった。
は俯いたまま、何もしゃべらなかった。
「ここまで嫌われていたなんて知らなくてさ。」
ハリーの声は淋しそうだった。
「でも、これじゃ仕方ないね。」
力無く笑うハリー
見なくても、どんな表情をしているか想像が付いた。
「に近づいたのは、僕が勝手に思いを寄せたからで、・・」
嫌な思いさせてごめんね。
そう言って、ハリーは静かに温室から出て行った。
パタンと扉が閉まる音を聞いてはぱっと顔を上げる。
「・・・ っ 一体 何なのよぉ。」
これじゃ私が悪者みたいじゃない・・
ずっとハリーが出て行った扉を見つめる
あんな酷いこと言ったのに。それでも好きと言われて。複雑な気持ちを抱きながら。
ハリーはその日以来、に話しかけなくなった。あの温室にも顔を出さなくなった。
それはそれで良いのよ。また、私にオアシスが戻ってきたんだから。
でも、ハリーが視界に入ってくると起こる
この心のもやもやは・・
それから何日か経った頃が温室から帰ってきた時、グリフィンドールの談話室はざわざわとしていた。
「あ、ねぇ、この騒ぎどうしたの?」
は近くにいた寮生に訊いてみた。
「あぁ、なんでもハリー・ポッターが大怪我して運ばれたとかって・・ 」
ありがとう と言った記憶が無かった。
ジョウロもほっぽってしまったんじゃないかしら。
そんなことはお構いなしに保健室へは走っていった。
保健室の目の前まで来て、は呼吸を整えた。一息ついてから、足を踏み入れる。
マダム・ポンプリーが忙しく行き来しているベット きっとこれがハリー・ポッターがいるところ。そこには、赤毛でのっぽのロナルド・ウィーズリーと、くせっけの栗色の髪の毛をしているハーマイオニー・グレンジャーがいた。
最初に、ハーマイオニーがに気付いてロンを小突いて知らせる。ロンはを見て、少し嫌そうな顔をしたがハーマイオニーに何かされたのか、痛そうな表情を一瞬して、
「じゃぁ俺たち行くよ。」
と席を立った。
え? とハリーは事に気付いてなかったようでベットに近づいてきているを見て、はっと息をのんだ。
ベットの側まできたは何を言おうか少し戸惑ったが「大丈夫?」とハリーに訊いた。
「あ、あぁうん。平気。」
「何があったの?」
ハリーは、えっと と言葉に詰まった。
「その、転んじゃって。」
「嘘つき。」
ばれたか、と頭を掻くハリー
その仕草に、思わず苦笑する
「実はその、クィディッチの練習でブラッジャーに。打ち所が悪かったみたい。」
そう言って、布団を少しめくる。包帯巻きにされている脚が見えた。
「不注意?」
「そうだね。」
こんな姿見られちゃうなんて、格好悪いな。
ハリーが残念そうに言う。少し、沈黙が出来た。
すると、突然は、「ポッターの格好良い時ってクィディッチをやってる時?」と訊いてきた。
ハリーは、「さ、さぁ。」と返答に困っていたがは、「そ、分かったわ。」と言った。
は立ち上がって、じゃぁ と続けた。
「次の試合に勝ってみせて。」
「この脚で!?」
「治るわよ。」
「そんな無茶な・・」
と、言い終える前にハリーの口に、の人差し指が当たった。ハリーが、を見上げる。
「無茶 とか、無理 とか言わないで。勝って。絶対勝ってよ。そしたら、考え直すわ・・ ハリーのこと。」
が微笑んだ その顔はあの温室でハリーが見惚れた、その微笑みそのものだった。
次の試合、対スリザリン戦後
あの温室は、2人のオアシスとなっていた。
・・・ fall in love with you.
英文の意味は
「君に恋するなんて夢にも思わなかった」です。
タイトルは「決してすることのない人」の意味を込めて。単品では使えないんですが(爆
156700番を踏んだ亜依様に捧げます。
読了感謝感激!