ヒトメボレ












ホグワーツを卒業して約三年の月日が流れただろうか。
は久しぶりの夏の休日を、ロンドンから遠く離れたある南の島へバカンスにやってきていた。


この島は、白い砂浜に青い海という絶好のバケーションスポット。
島の周りには魔法をかけておいたので、マグルが迷い込んで来ることもない。 つまり、この島はほぼの貸しきり状態ということだ。





「ん〜、いい風!」



コテージから出て砂浜へ出ると、潮の香りがすっと吹き抜けた。さんさんと輝く太陽が、海面に反射して眩しい。
なぜか学校へ通っていた頃の好奇心がワクワクと出てきて、は少しこの島を探検してみる事にした。



コテージから三百メートルほど離れただろうか、はそこで小さな洞窟を見つけた。
よく注意してみないと気づかずに通り過ぎてしまうぐらい、小さな洞窟だ。入り口も、人一人がやっと通れるぐらいの。



「これは入ってみるしかないでしょ・・・」



はニヤニヤとこの先に待ち受ける何かを期待しながら洞窟の中へ入った。入るときに服が汚れてしまったが、洗えばいい。



「ルーモス」


真っ暗な洞窟の中では何も見えないので、は杖を握って呪文を唱えた。 光がパッとついたとたん、なにかがもぞっと動いた。




「ん?」



近づいてみると、そこには黒い大きな犬が横たわっていた。
ひどく痩せていて、汚れているし怪我もしているようだ。は膝を曲げて、その犬にそっと触れた。



「可哀想に・・・。きっと何も食べてないのね」




が頭をさすってやると、犬はうつろな目でキューンと可愛らしく鳴いた。
早く手当てやら何やらをしてあげたいので、は犬をだっこすると、姿くらましをしてコテージへと帰った。



「なに食べるんだろう・・・。ここは無難にチキンとかかなぁ」



まずは何か食べさせてあげないとと思い、は冷蔵庫から昨日の残り物のチキンを出し、魔法で温めてお皿へ移した。
黒犬はに呼ばれると、うれしそうにの周りをうろつきながら尻尾を振った。




「はい、お食べ」



がお皿を床に置くと、黒犬はガツガツと一瞬の内にして食べ終わってしまった。はそんな食欲旺盛な犬にあっけに取られつつも、クスッと笑った。




「ワンちゃん、ご飯も食べ終わったことだしお風呂に入ろう。なんなら一緒に入っちゃおうか」



が笑ってそう言ったとたん、さっきまでうれしそうにお風呂に入る気満々だった黒犬は、急にお風呂場に行くのを嫌がり始めた。



「どうしたの?水が怖いの?でもそんなに汚いんじゃ家の中にいられないからダメよ。少しだけ我慢してね」


は嫌がる黒犬を引きずり、なんとかお風呂場まで連れてくることに成功した。
お風呂場に犬を最初に入れて逃げないように扉を閉め、は着ている服を脱ぎ始めた。
すると、なぜか扉の向こうでシャワーの音がするではないか。犬がシャワーを使えるわけがない。

は不思議に思って着替え途中なのも気にせず扉をそぉっと開けた。



「?!・・・・・ど、どちら様で」



さっきまで自分の可愛がっていた黒犬はあとかたもなく、そこには全裸の男がシャワーを浴びていた。
黒い髪が長くのびて、整った顔つきをした男がそこにいた。



「ワンワン!」



自分を驚きの顔で見つめるに、男は悪びれもなく犬の真似をして吼える。



「ワン!・・・・って、戻ってる!!」


一度吼えて、男は目線を自分の後ろにあった鏡へ向けた。
そこには黒髪の自分の姿が当然映っているわけで、なぜか男は鏡に映った自分の姿にあたふたとしていた。




「・・・・」
「えっと、これには深い訳がっ!あのだな、その!」
「そ、その前に・・・服を着て、ください・・・」




は顔を男から背けながらポツリと言った。




「はぁ、それでシリウスさんは逃亡中の身だと・・・」



どうやらこのシリウスという男は無実の罪でアズカバンに収容されてしまい、つい最近に脱獄したとか。
はテレビをあまり見るほうでもなく、バカンス中で新聞もとっていないので、そのようなニュースは初耳だった。



「でもどうしてワンちゃんになってたの?もしかして・・・アニメーガス?」
「ああ。学生時代の頃に習得した」
「すごーい!学生でアニメーガスを習得できちゃうなんて」



お風呂場で会ったときはとてもビックリしたが、話してみるととても気さくな人で、
とても人をたくさん殺してアズカバンに収容されたとは思えなかった。まあ実際無実の罪なのだが。




ってここに暮らしてるのか?」
「ううん。ここには休暇で来てるの」
「ふーん。彼氏は?いんの?」
「えっ?!なにその急な展開!」



はシリウスのいきなりの質問に顔を赤くした。対するシリウスは別に普通の表情をしてを見ている。



「その反応だと、いねぇみたいだな」
「悪かったわね」
「じゃあさ、俺と付き合わねぇ?俺、お前好きかも」



ニコッと笑って恥ずかしいセリフを淡々と言ってのけるシリウスに、は「えぇえ?!」とオーバーリアクション。




「なっなんで、そんな!イキナリ言われても・・・」
「ヒトメボレってあるだろ?俺は今日、にヒトメボレしたんだよ」
「ぅ゛・・・」


押されると弱い性格なのか、はなにも反抗する手立てがなかった。
自分を好きだといってくれるのはとてもうれしいことだ。でもいきなり言われても、すこし戸惑う。




「別にすぐに好きにならなくてもいいさ。時間をかけて俺を好きにさせる」






シリウスは勝算たっぷりの笑顔での頬にキスをした。



その後二人がラブラブになったのは、別の話。